GRAPE-1
「テーブルで引けばいいじゃん」
と、事も無げに桜井先生はおっしゃいました。大学院への進学を間近に控えた1989年3月、重力専用の計算機開発について相談に乗ってもらおうと、講義で電子工学を担当されていた桜井捷海先生の研究室を訪ねたときのことでした。テーブル(表)を引くというのは、あらかじめ答えの表を作成してメモリなどに格納しておき、入力データに応じて答えを引き出す方法をいいます。この方法が使えると、どんなに複雑な計算式でも答えが1クロックで出てきます。
「そんなに簡単にはいきませんよぉ」私は自分の勉強してきた話を少し聞いてもらい、退室しました。重力計算をそのままテーブルにすることは全く無理な話でした。しかし「まてよ…」と立ち止まりました。「全体では無理でも各演算部分をテーブル化したらROM(Read Only Memory)を並べるだけで計算機が作れるのでは…」ROMの容量を調べてみると、8bitの精度ならば作れることがわかりました。8bitの精度では使い物にならないかもしれませんが、とりあえず練習機として作ってみようと思いました。そのことを牧野さんに話すと、ちょこちょこっと計算して、「銀河の計算になら使えるよ」ということがわかりました。
こうして20万円のスーパーコンピュータは誕生しました。

重力多体問題専用計算機GRAPEの試作1号機。1989年9月完成。IC総数97個。製作費20万円。
演算速度は240Mflops相当に達し、初期のスーパーコンピュータに匹敵しました。銀河や銀河団など、演算精度が低くてもよい系の数値計算に使用されました。
Tomoyoshi Ito, Junichiro Makino, Toshikazu Ebisuzaki and Daiichiro Sugimoto, "A special-purpose N-body machine GRAPE-1", Computer Physics Communications, Vo.60, pp.187-194 (1990).
Junichiro Makino, Tomoyoshi Ito and Toshikazu Ebisuzaki, "Error Analysis of the GRAPE-1 Special-Purpose N-body Machine", Publ. Astron. Soc. Japan, Vol.42, pp.717-736 (1990).